6章 さわれる未来 

 6章「さわれる未来」では,まずユーザー調査の手法や,デザインの成果物のパターンが上げられ,それぞれの手法や成果物にそれぞれどのような意味があるのかということが述べられます.「検索のシナリオ」では,検索と発見の未来を想像させる幾つかのショートストーリーとその解説があります.感覚を利用した検索,セマンティック検索,ソーシャル検索がシナリオとして上げられています.最終節の「発見を体験する」では,拡張現実(AR)の例をもとに,検索と発見に関係する技術進化の速さと,そのような技術革新によりどような課題がもたらされるか述べ,その課題に対応するためには,本書で繰り返し述べられているようにこれまでのパターンを熟知するとともにそれを破ることが必要とまとめています.

抜き書き

  • メソッドと成果物
    • 控えめなユーザー観察に実効性が認められることはめったにない.(p.164)
    • データはユーザーが用いる語句を教えてくれるが,彼らが何を探しているのか,それが無事見つかったのかは教えてくれない.(p.165)
    • デザイナーが作る資料は,ただの説得材料じゃない.探索用の乗り物でもあるのだ.(p.165)
  • 検索のシナリオ
    • キーワードと統制語彙を用いる方法が,本当にベストなのか?それとも,言語の壁を越えられるだろうか?(p.169)
    • 実際のところ,セマンティック検索はほとんど座興の域を出ていない.(p.172)
    • (引用者注:セマンティック検索のアプローチよりも),クエリー再構成のデータやクエリー実行後のクリック結果からオートサジェストを実現するといった,もっと地味なアプローチの方が,より費用対効果が高いだろうというだけの話だ.(p.174)
    • ソーシャルな行動の指標にリアルタイムにアクセスできれば,ある情報がニュースになるより早く通知を受けて気づくことができる.(p.177)
  • 発見を体験する
    • 体験の発見という,好奇心をくすぐられる協調的な課題に取り組むことも必要なのだ.(p.182)
    • 検索と発見を目的とするアプリケーションのデザイナーとして,僕らはこれからの学習やリテラシーのあり方を決めることになる.知識の収集や整理をしたり,創造力を引き出す上で,検索はなくてはならない役割を果たす(p.183)

所感
 図書館の検索のこれからを考えたとき,あらためて考えてみようと思ったトピックを2つあげます.

  • 電子書籍が単に電子化した書籍から,電子書籍ならでは機能(ex.どこで読んだのか,どこにアンダーラインを引いたかなどソーシャルな情報を共有,動画や音声との融合)を本格的に備えるようになった時に,必要な検索機能は?
  • 書籍の全文検索が可能になった時,それでもあえてコストをかけて追加すべきメタデータはあるのか?

現時点で,私に明確な答えがあるわけではありません.しかし,これらは既に一部では現実となっていることです.Li:d techの活動などを通して,問いを探し考え続けていきたいと思います.