パターン、Wiki、XP - 第3部:Wiki
第3部では、本書の動機となったWikiの起源について書かれている.パターンプラウザから始まるWiki誕生までの歴史、Wikiが備えるコミュニーケションの基盤となる機能、Wikiの設計原則とアレグザンダーの理論やXPのプラクティスとの共通点、Wikiを利用したWebサイトで最も良く知られているものの一つであるWikipediaの歴史、そして現在のWiki、といった構成である.
Wikiという他人の書いた記述を含めて書き換えることのできる極めて自由度の高いシステムを上手く機能させるには,参加者の合意形成を行いながら運用していく必要がある.そして,Wikiというのはコンテンツの蓄積だけでなく,合意形成のためのコミュニケーションの場としても機能する点である.本書によれば,現在の日本を代表するWebサービスであるはてなやニコニコ動画には,Wikiの特性が組み込まれているという.特にニコニコ動画においてその成功はユーザー自身が新しいコミュニティのルールを作っていたところであろうが,そこにWikiの特性が関与しているという発想はなかったので興味深い.
以下、抜き書き
- 12章 HyperCardによるパターンプラウザ
- パターンプラウザは、単に1人で編集する段階を超え、複数の利用者が共同で情報を編集・追加していく、共同編集の段階へと成長していきました。(p.116)
- 13章 WikiWikiWeb
- カニンガムは、ここで作ったしくみ(引用者注:Wiki)の名前に、メールや掲示板のような現実世界の何かを想起させる単語を使いたくありませんでした。Wikiという単語はハワイ語だったため新鮮な響きを持っていて、何の先入観も持たない単語として使うことができたのでしょう。(p.123)
- カニンガムは、「すべての問題を一気に解決する1つのアイデア」という考え方が好きです。(p.127)
- Wikiにカテゴリ機能を追加しなくても、カテゴリそのものも普通のページとして実現してしまえばいいと考えたのでしょう。(p.127)
- 「カテゴリ」と言いながらも、実際には階層構造ではなく分類が重なり合っているため、ツリー構造ではなくセラミティス構造であると言えます。(p.127)
- Wikiの各ページはあえて階層構造を持たず、フラットな名前空間の中で一元的に管理されています。このように情報をフラットに並べて管理するというコンセプトにおいて、両者(引用者注:パターンプラウザとWiki)は大きく共通しています。(pp.127-128)
- 14章 Wikiモードによるコミュニケーションパターン
- 編集が即座に反映され、ほかの人に伝わるという特製から、Wikiはパターン記述の場であると同時に、パターンについて議論し合うコミュニケーションの場としても機能するようになりました。(p.129)
- ページ記述のルールも議論をすすめるためのルールも、どちらもWiki上のコミュニケーションを円滑に進めるためのルールです。そのためここでは、両者を一体のものとして「コミュニケーションパターン」という言葉で表現します。(p.130)
- Wikiは、誰もが自由に、ほかの人の記述も含めてどこでも書き換えられます。それが、非常にラジカルですごいことなのですが、その代わりにそのような環境を維持するためには非常に大きな努力が求められます。議論を通じて合意や共通理解に到達することに価値を認め、各々が実践していくという文化を創り上げることが、Wikiにとっては非常に重要です。(p.137)
- 15章 Wiki設計原則
- 自分自身のソフトウェア開発と同じく、自分たち自身で良いとされるルールを考え、決めていくことが大切です。(p.145)
- Wikiのもつこのような特質(引用者注:参加者間の合意でコミュニケーションのルールを作り上げていくこと)は、コミュニティの活動と発展を助けるための有効な手助けとなります。(p.146)
- 無名の質を備えたコミュニティとは、生き生きとした持続性のある発展可能なコミュニティでもあるのです。(p.146)
- 16章 Wikiエンジン
- つまり人々はWikiBaseのシステムの中で、ページ中にリンクを埋め込む手法「WikiName」とテキストをHTMLに変換するしくみ「Wiki記法」の2つの機能に興味を持って。改良や提案を行っていたわけです。(p.154)
17章 Wikipedia
まとめ
最後に先月の「検索と発見のためのデザイン」から頻出する,「パターンランゲージ」について.アレグザンダーの6つの原理のうちの一つだが,その中でも「パターンランゲージ」は特に良く知られている.また,2010年から図書館界においても,この「パターンランゲージ」を活用して図書館のデザインを見直す試みが行われている.2011/3/5に筑波で開催されたラーニングコモンズデザイン会議(春)に参加した際,グループワークで既存のパターンを定期的に見直し改善していくパターンという,メタなパターンが議論にあがった.これは,アレグザンダーの6つの原理(1.有機的秩序の原理,2.参加の原理,3.漸進的成長の原理,4.パターンの原理,5.診断の原理,6.調整の原理)もまた一つのパターンとみた場合,まさに診断の原理・調整の原理で述べられているプロセスであろう.
パターンランゲージは,特に斬新な理論という訳ではなく,ずっと昔からある程度無意識に行われてきたことだと思う.ただ,それに明確な名前をつけ,一定のフォーマットのもとに整理したという点が優れているのだろう.そして,先人のパターンを活用できる私たちは,既存のパターンをただ使うのではなく,自分たちの状況に最適化して活用する,もしくは新しいパターンを作るという意識が必要ということを改めて感じた.